THE PLANETS「太陽系の果て 未踏の世界へ」

1:氷の巨人 天王星

私たちの太陽系探査は未知の領域に踏み込もうとしています。水星から土星までは探査でもたらせられる情報は豊富でした。ところがそれより遠くの惑星は違います。探査機が到着するのに10年以上かかるため天王星や海王星を調査できたのはわずか一回だけです。

太陽から天王星まではおよそ29億km。まさに謎に満ちた世界です。1977年に打ち上げられた探査機ボイジャーは時速6万 km 以上で飛行しました。地球を離れておよそ9年。たどり着いたのは太陽系7番目の惑星「天王星」です。人類初となる天王星の探査でした。接近して調べたところ大気の成分は水素とヘリウムでした。また惑星内部はメタン・アンモニア・水がカクテルのように混ざり合って凍っていました。大気には取り立てて大きな特徴はありませんでした。分かったのは天王星に雲が10個あるということだけでした。それもそのはず気温は-224℃と太陽系で最も冷たい惑星でした。低温のためあらゆるものがほとんど変化しないのです。天王星が「氷の巨人」と言われるゆえんです。ボイジャーが天王星で過ごしたのはわずか6時間でしたが得られたデータからいくつかの謎に迫ることができました。一つ目は天王星の輪についてです。天王星には土星のような輪がありボイジャーは新たに二つの輪を発見しました。幅はわずか数kmでした。

天王星の謎は公転と自転についてです。そもそも太陽系は46億年前に生まれ惑星は岩石やガス、氷などから形成されました。それらは太陽の周りを時計とは反対方向に公転しています。そして多くの惑星は公転と同じ方向に自転もしています。つまり公転と自転はほとんどの場合同じ方向です。しかし金星と天王星だけは違いました。公転とは違う方向に自転していたのです。その理由はまだ解明されていません。天王星にはもう一つ謎がありました。惑星が横向きに自転しているのです。しかしその理由もわかっていません。

仮説はあります。何億年も前天王星に地球ほどの大きさの惑星が衝突したと考えるものです。コンピューターのシミュレーションによると衝突して地軸が傾くと周りを回っている衛星やチリなども一緒に回転することが分かっています。

2:風の惑星 海王星

天王星からおよそ16億km離れた海王星へ向かいます。地球を出て12年。ボイジャーは海王星に到達しました。海王星は地球の3.7倍。太陽系で4番目に大きな惑星です。青く見えるのは大気にメタンが含まれているからです。海王星は天王星とは違い大気の活動が活発でした。

非常に強い風が吹いています。メタンの雲は猛スピードで動いています。風速はなんと時速2000 km以上。太陽系で最も強い風です。太陽の光のエネルギーがほとんど届かない海王星でなぜ激しい風が吹くのか。大きな謎です。

その謎を解き明かす鍵は温度にあります。海王星の気温は-214℃。天王星は-224℃。太陽から遠い海王星の方が10℃も暖かいのです。なぜ暖かいのか。それは内部からの熱と考えられています。その熱は太陽からのエネルギーの2.5倍にもなります。激しい風は内部からの熱による大きな対流が引き起こしていると考えられるのです。しかしその熱がなぜ発生しているのかまでは分かっていません。

時速2000 kmの風が吹くのは海王星には硬い地表がないことも理由の一つ一つとして考えられます。風の流れを止める山や大陸などの障害物がないからです。そのため風は超音速で吹き荒れることができるのです。

3:太陽系最後のフロンティア 冥王星

冥王星にはニューホライズンズが挑みました。NASA が計画した最も遠い惑星への挑戦でした。NASAのニューホライズンズ探査機が冥王星とその先まで10年を超える旅に出ました。

ところがニューホライズンズが冥王星へ向かっている間に惑星の定義について議論が巻き起こります。冥王星は海王星の衛星より小さいことは知られていました。さらにハップル宇宙望遠鏡によって新たな天体がいくつも発見されこれが冥王星の地位に疑問を投げかけたのです。

国際天文学連合は惑星の定義を大きく三つ決めました。まず太陽を公転していること。冥王星はおよそ248年の周期で公転しています。次に天体がほぼ球体であること。冥王星はほぼ球体です。さらに天体が公転する軌道上に他の天体がないこと。冥王星はこの点が引っ掛かりました。なぜこのような定義を決めたのでしょうか。それは冥王星の大きさで惑星となると「エリス」や「マケマケ」等も惑星になります。おそらく何百という天体が惑星になってしまいます。

冥王星は特徴のない天体と考えられてきました。しかし実際には表面は-230℃の凍った窒素で覆われながらも活発に活動していました。ニューホライズンズから送られてきたデータから驚く程バラエティに富んだ天体だと分かったのです。冥王星で最も注意すべきところはトンボー地域です。別名「冥王星のハート」。

そう呼ばれるのはハートの形に見えるからです。ハートの左端は「スプートニク平原」です。スプートニク平原は凍った窒素・メタン・一酸化炭素に覆われています。平原からは標高6000mほどの氷でできた山脈が続いています。この地域を分析すると他の天体とは違う特徴が見えてきました。

冥王星の表面は何十億年も前にできたクレーターで覆われています。しかしスプートニク平原はなめらかでクレーターがひとつもありません。冥王星を撮影した画像を見てもスプートニク平原にはクレーターがなく平らな地域が多いことが分かります。詳しい画像を見ると謎はさらに深まります。五角形や六角形をした模様がいくつもありました。スプートニク平原は蜂の巣のような模様で覆われていたのです。

何が起きているのか。謎を解くヒントが太陽の表面や下から熱せられた液体の画像にありました。これは対流が起きている時の特徴です。下が熱く上が冷たい場合対流が起こります。その対流が蜂の巣のような模様を描くのです。スプートニク平原の下には凍った窒素を温める熱源があると考えられます。そして温められた窒素がゆっくり動くことで平原の至る所に模様を作り出しているのです。

スプートニク平原の観測で内部に熱源があることがわかりました。冥王星には現在も水の海が存在していると考える科学者もいます。その海が温かいこともスプートニク平原にクレーターがない理由の一つと考えられます。表面の窒素が地下にある暖かい海に温められて動きクレーターを消し去っているというのです。しかしなぜ冥王星は活発に活動を続けているのでしょうか。それは昔大規模な衝突があったと考えられるからです。衝突で表面に大きな穴が開き内部の海にまで到達したのかもしれません。その穴に凍った窒素が少しずつ流れ込み埋め尽くされました。窒素はその下にある暖かい海によって温められゆっくり動いているというのです。

ニューホライズンズが冥王星に最接近したしたのはわずか数時間。その間に調査できたのは天体の半分のエリアだけでした。残り半分は謎のままです。しかし冥王星は最後まで私たちを驚かせてくれました。遠ざかるニューホライズンズが冥王星に再びカメラを向けると 表面の大気が暗闇の中で光っていました。冥王星にも青い空が広がっていたのです。

4:未踏の世界へ

2019年の元日ニューホライズンズは海王星軌道の外側にある「エッジワース・カイパーベルト」の中を進んでいました。地球からおよそ65億km。人類は最も遠くで未知の物体と出会いました。「ウルティマトゥーレ」。「私たちの知る世界を超えたところ」という意味から名づけられました。我々が出会った最も原始的な天体かもしれません。ウルティマトゥーレは太陽系ができた46億年前を思い起こさせてくれるのです。かつてウルティマトゥーレは数え切れないほどの衝突を繰り返していたことでしょう。その中でカイパーベルトまで弾き飛ばされて来たのかもしれません。太陽から何十億kmも離れた世界には太陽系誕生の秘密が眠っています。ついに我々はその謎を解き明かすところまで近づいたのです。ニューホライズンズは今も未知との遭遇を繰り返しています。

宇宙探査を始めてわずか50年。私たちは太陽の惑星に全て到達しそれぞれの物語を語り始めています。めくるめく変化。ドラマチックな生い立ち。希望の瞬間。そして喪失。太陽系にわずか8個の惑星。真っ暗な宇宙で私達の地球に生命が誕生しました。

太陽系の探査は始まったばかりです。神秘に満ちた天体の謎を解き明かしながら人類は新たな物語を語り始めるのです。

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