THE PLANETS「運命を分けた姉妹惑星 火星」

 

1:火星 水の痕跡を探せ

2012年8月6日、7年の月日と25億ドルを掛け開発されたキュリオシティがついに火星へと着陸しました。キュリオシティが着陸したのはゲールクレーター。直径150kmの盆地でかつて湖があったと考えられています。キュリオシティは1日に最長で200m移動し、火星表面のサンプルを採取、その組成を分析します。細かい砂を分析したところ驚くべき発見がありました。火星の表面は完全に乾いているように見えますが、現在も土壌には2%の水分が含まれていることが分かったのです。ついにキュリオシティは火星表面に今でもわずかながら水がある証拠を見つけました。

火星40億年前。火星はかつて数億年もの間、水が豊富な惑星でした。雨が降り、川が流れていました。火星表面の1/5が海に覆われていたのです。赤い惑星はかつて青かったのです。

地球40億年前。誕生から間もない地球は今からは全く想像できない姿でした。有毒な大気で覆われ二酸化炭素が充満していました。海は酸性。40億年前の地球は問題を抱えた有毒な世界だったのです。

一方、姉妹惑星の火星は繁栄していました。その証拠を見つけたのは火星表面を探査していたキュリオシティです。キュリオシティは動く実験室で、スコップですくったりドリルで採掘したり大気を吸い込むことでサンプルを集めました。そのデータから惑星の物語を読み取るのです。2015年私たちは火星で有機物を見つけました。これはとても重要な発見です。私たちが火星の岩で見つけた物質は地球でも見つかるかもしれないからです。有機物の発見は生命を探すための重要な手掛かりになります。

40億年前には恵まれた環境のもと生命が誕生していたかもしれない火星。一方、現在とはかけ離れた姿をしていた40億年前の地球。いずれの惑星も間もなく自らの存亡を脅かす宇宙の激変に飲み込まれようとしていました。一体何が起きたのでしょうか。

38億年から39億年前「後期重爆撃期」と呼ばれ激しい衝突が繰り返されました。この時粉々になった無数の小惑星が火星全体に降り注ぎました。この時期には火星だけではなく他の岩石惑星にも小惑星が降り注ぎました。太陽系の進化を分析したところ「後期重爆撃期」は海王星が関わっているという結果が出てきました。重力の相互作用で多くの天体の軌道が乱れ太陽系の内側に移動、後期重爆期を招いた可能性があります。

地球から遠く離れた太陽系の最果てに多くの天体が密集する場所があります。「エッジワースカイパーベルト」です。海王星が「エッジワースカイパーベルト」に移動したことで多くの天体が太陽系の内側へ向かい、後期重爆期の原因となったというのです。

地球39億年前。地球も火星と同じように小惑星の襲撃を受けました。地球と火星は数千万年もの間運命の境界線をさまよったのです。これほど悪い状況はないと思われた時、地球にはとても重要な変化が起きました。「生命」です。生命がどのように誕生したのかは依然謎のままです。科学者は火山性の温泉や深海の熱水噴出孔が生命が自然と誕生するのにふさわしい環境だと考えています。つまり、太陽系の別の場所で同様の条件を備えた場所が見つかれば、そこでも生命が始まった可能性があるのです。

 

2:火星 生命誕生の証を探れ

ノアキス紀(約41~35億年前)。火星のノアキス紀には生命の生存に適した環境が数億年間続きました。しかし生命にとって楽園のような時代は突如終わりを告げます。火星の気温が急激に低下したのです。

「ノアキス紀」は約35億年前に終わり火星は「へスペリア紀」という凍った不毛の時代に入りました。表面を流れていた水は氷に姿を変えました。しかし同時に火山活動が活発になり噴火や溶岩によって氷が溶け洪水が起きることもありました。太陽系の歴史の中でも特に壮大な光景が現れたのです。

火星(35億年前)。火山活動が活発になった火星では溶岩により地殻が押し上げられ雪解け水が地表に流れ出ます。水は激流となりイーチャス谷というところに押し流されます。なんと高さ4kmの崖から流れ落ち、太陽系最大の巨大な滝を作り出したのです。洪水が収まると水はなくなり火星の表面には滝の痕跡が残されました。

 

3:大気に隠された火星の秘密

2014年NASAのアトラス5号に搭載されたメイブンによって、火星の大気が宇宙空間に逃げ出していることが明らかになりました。火星の大気から時間を掛け徐々に剥ぎ取られ、大気による温室効果が減ってしまったのです。その結果火星の表面温度が急激に低下しました。火星が大気を失った一方で地球は大気を維持しています。一体何がこの違いをもたらしたのでしょうか。

太陽から秒速450kmもの速さで放出されるプラズマ。これを「太陽風」といいます。もし地磁気がなければ地球を覆う大気は太陽風の影響を受けて剥ぎ取られてしまいます。この青い惑星が太陽系に存在できるのは地磁気が太陽風から地球を守る役割を果たしているからなのです。有害な太陽風から地球を守り盾の役割を担う磁場。この防護システムの源は地球の内部深くにあります。地下約千kmに地球の外核があります。外核では液体金属が対流し地球の自転の作用でらせん状に回転しています。このらせん状の流れがダイナモとなり磁場を作り出しています。磁場は宇宙空間にも及び地球を太陽風から守ります。私たちはその現象を目にしているのです。

火星もかつては地球のような磁場で太陽から守られていました。北極や南極の上空にオーロラが舞っていたのです。しかし35億年から40億年前に火星の磁場を発生させるダイナモのスイッチが切れました。火星の極地で輝くオーロラはゆっくりと消えて行きました。火星を守っていた防護システムの機能が永遠に停止した結果、火星の大気が宇宙空間へと流れて行ったのです。保護がなくなったことで火星の海は蒸発し地表は凍りました。火星はその姿を一変させたのです。地球35億年前。同じ時期、地球は全く違う運命を歩もうとしていました。

地球も火星と見分けがつかず不毛の大陸が海に囲まれていました。しかし海では生命が地球を一変させようとしていました。原始的な藻類が海の酸性度を中和し、メタンが豊富で高い濃霧に応われていた地球の大気に酸素をもたらしたのです。およそ6億年前大気中に酸素が含まれるようになり海の中で生きものが複雑に進化し陸地に進出しました。最終的に豊かなら生きものの世界が生まれたのです。

火星は太陽系の中でも特に岩石が少ない領域で形成されたのです。それが火星の成長に重大な影響を与えました。火星の直径は6800kmと地球のおよそ半分ほどです。このため火星の外核は地球よりも早く冷えたと考えられています。地球よりも早く冷却した火星の核。その結果火星の防護システムを生み出すダイナモの動力源が失われてしまいました。

火星は地球よりも太陽から離れていますが防護壁がなくなったため火星の大気は太陽風により剥ぎ取られました。そして死を迎えたのです。太陽系での位置と大きさの違いが地球と火星の運命を分けたのです。

遠い昔に誕生した二つの姉妹惑星。幼少期火星は温暖で湿潤でした。一方地球は荒れ果てて有害な環境でした。どちらの若い惑星も激動の後期重爆撃機を乗り越えて大人の惑星へと成長し、生命の誕生に必要なあらゆる構成要素を備えていました。しかし小さい方の惑星の奥深くでは死のプロセスが進んでいたのです。火星の海は干上がり内部の核は徐々に冷たくなり火星の炎は消えてしまいました。太陽系最大の火山オリンポス山が最後に噴火したのはおよそ2500万年前です。溶岩は石となり火星は徐々に凍っていきました。現在火星の表面は赤褐色に染まるチリに覆われています。しかしそれが火星の物語の結末ではありません。

なぜなら次世代の宇宙船が間もなく登場するからです。NASAのオリオンが高性能試験を繰り返しています。ESAのエクソマーズは生命の痕跡を探査するため2016年に打ち上げられました。最も野心的な民間宇宙計画も進行しています。人類を火星へ送る有人宇宙船が開発されているのです。

火星は破綻した世界です。しかし火星にかつて生命が存在していたまたは今も存在している可能性はあります。もし生命が発見されれば哲学的科学的文化的に極めて重大な結果をもたらすことになるでしょう。宇宙が生命で溢れていることは我々が孤独ではないことを意味するからです。同様に重要なのは火星のような惑星が我々の未来に果たす役割です。火星には資源が豊富にあります。地下には凍った海が広がっていて鉱物や鉄と窒素炭素と酸素もあります。近い将来火星人が現れるでしょう。火星人とは我々のことです。火星に故郷を作ればさらなる宇宙へ旅立つための第一歩となるでしょう。

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