THE PLANETS「ひとときの楽園 水星・金星」

1:灼熱の衛星 水星の秘密

 

小さく過酷な世界の「水星」。その大きさが月とほぼ同じく、多くのクレーターがあることも月と似ています。(直径4900km、月:3500km)水星は数十億年もの間どの惑星よりも太陽の容赦ない光に耐えてきました。

また極端な楕円軌道を描いていて、最も遠い時は太陽から7000万kmで最も近いと4600万kmとなります。水星は大気がないため昼は430℃まで上がりますが夜になると氷点下170℃まで下がります。昼と夜に温度差は600℃にもなるのです。太陽の重力の影響で自転が遅いため、地球の時間に換算すると昼が88日間、夜も88日間続きます。水星は太陽系で最も気温差が激しく1日が長い過酷な惑星なのです。

1973年にアメリカのNASAにより「マリナー10」が打ち上げられました。マリナー10はおよそ330kmまで水星に接近し、燃料切れ燃料切れになるまで観測と続けました。2004年にはさらに「メッセンジャー」が送り込まれ7年の歳月をかけて水星に到着しました。

「メッセンジャー」は太陽からの熱から機体を守るために巨大なセラミックで覆いました。また水星表面からの強い反射熱に対しては、探査機を極端な楕円軌道で飛行させることにより解決しました。計器類が熱くなったら水星から1万km離れ冷やします。こうやって探査機が熱で故障しないよう工夫したのです。

探査機メッセンジャーは軌道のわずかな変化から水星の重力場の調査を行いました。さらに自転軸の傾きも調べ水星の断面図を作成しました。すると奇妙なことが分かりました。水星の核の割合は85%で表面近くまで核が存在していたのです。他の岩石惑星は50%前後(金星50%、地球50%、火星40%)なので、比べてみると水星の核が突出して大きいことが分かります。つまりもともとは他の惑星と同じ位の割合だった水星は、他の天体との衝突により表面の岩盤がはがれて現在の85%もの高い割合になったと考えられています。

その後も調査を続けたメッセンジャーは、北極点付近のクレーターである水が存在する証拠を見つけました。極地のクレーターには数千億トンの氷があったのです。水星の自転軸はほぼ直角のため極地のクレーターの底には日光で完全に遮られます。そのため氷は何十憶年も安定していた存在していた可能性があるのです。

 

2:金星にかつて訪れた春

 

金星の温度457℃、二酸化炭素96.5%、気圧89気圧。海が広がる地球の世界とは程遠く、近世にはいかなる生存できない地獄のような光景が広がっています。1982年、ソ連の金星探査機「ベネラ13号」は数秒で車を押しつぶす程の気圧と、鉛を溶かす程の高温に耐えられるように設計されていました。ソ連は初めて金星表面のカラー写真の撮影に成功。着陸から127分後に機能が停止するまで探査機は貴重なデータを地球に送信しました。

 

 

太陽は年を取るにつれてどんどん熱くなっています。もっと若かった頃は今よりも温度が低かったはずです。35億年から40億年前、生命が生まれたばかりの地球を照らす太陽はもっと暗かったでしょう。つまり金星の温度ももっと低かったのです。当時の金星は「うららかな春の日」のようだったのです。

金星の大気が毛布の役割を果たし海と温暖な気候が維持されました。「温室効果」のお陰です。それは必ずしも悪いことではありません。温室効果がなければ地球の平均気温は氷点下18℃前後に冷え込むでしょう。惑星が温めるのと熱くなるのは紙一重なのです。

 

20億年の年月を掛けて若い太陽は徐々に明るくなって行きました。金星の温度は上昇を始めより多くの水蒸気が大気に放出されます。増えた水蒸気は温室効果を高め、雨は表面に届くはるか前に蒸発するようになります。やがて臨界点に達する金星。引き起こされた「暴走温室効果」で海は沸騰します。水は液体のままで存在することができません。金星におとずれた「ひと時の楽園」は終わりました。金星は太陽系の中で最も温度が高い惑星になったのです。温暖化が進む地球、楽園のままでいられるのか。金星のような過酷な運命をたどるのでしょうか。

 

3:太陽系の最後に現れる楽園

太陽の最後は決して穏やかではありません。赤色巨星の段階に入ると数百万km大きくなります。最初に飲み込まれるのは水星です。金星の運命も決まっています。地球はそのような熾烈な運命を免れて死にゆく太陽のそばで火星と共に生きながらえるかもしれません。地球で繁栄した生命ももはや遠い昔の話となるのです。四つの地球型惑星の時代は終わりを迎えます。

太陽の膨張により今度は太陽から遠く離れた惑星が暖まり始めます。しかしそこにあるのは木星や土星などのガス惑星。地球のような固い地表がなく生命が存在できるとは考えられていません。しかし巨大ガス惑星を回る衛星は岩石でできています。物語にはまだ続きがあったのです。

太陽の一生が終わる直前すばらしいことが起こるでしょう。太陽系の誕生からずっと眠っていた氷の世界、木星と土星の衛星が目を覚ますのです。二つの巨大ガス惑星には見つかっているだけでも140個以上の衛星があります。土星の衛星エンケラドスや木星の衛星エウロパです。

あらゆる衛星の中で特に注目されているのが、土星を回る宝石のような衛星タイタンです。水星より大きく(直径5150km)、惑星規模のサイズを誇ります。窒素とメタンの厚い大気に覆われ、表面の様子は長年謎に包まれていました。タイタンの雲の下を始めて観測したのは探査機「ホイヘンス」。遥か彼方の衛星の画像を初めて送ってきたのです。ホイヘンスはタイタンへの軟着陸に成功し観測結果を送信し続けました。

そこには岩のように摩耗しているものが写っています。これは液体の作用によるものです。これは岩ではなく凍った水の塊です。衛星の表面温度は氷点下180℃のため硬く凍っているのです。タイタンでは気圧が比較的高く温度が低いためメタンは液体として存在しています。(1.5気圧180℃)タイタンを流れているのは水ではなく液体メタンの可能性があります。それによって岩のような氷の塊が液体メタンの川を流れ氾濫原を形作ったと考えられるのです。

55億年後。太陽が年を取り膨張すると、太陽から遠く離れた世界には今よりも多くの太陽エネルギーが届くようになります。タイタンの大気は暖まり始め、気温の上昇に伴って氷の山は溶けて小さくなります。溶けた水は液体メタンに取って代わり新たな海を作り出すのです。奇妙な運命のいたずらによって太陽の最期の瞬間に、太陽系に残された最後の水の世界が生命誕生の可能性をもたらすのです。遥か彼方の衛星は「つかの間の楽園」を楽しむでしょう。

地球はとても幸運な惑星です。絶え間なく変化する太陽系のオアシスです。40億年近く安定し生命が生まれ文明が発展しました。

太陽系で地球以外の惑星にもたらされた楽園。しかしその楽園は文明を育むほど長くは続きませんでした。探査の末に解き明かされた惑星の数奇な運命。その物語は生命に満ち溢れた地球のありがたみをあらためて教えてくれるのです。

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