THE PLANETS「私たちの運命を握る 木星」
1:巨大惑星 木星
宇宙では距離のスケールが桁違いに大きくなります。木星までは6億5000万kmあります。そんなに遠く離れている惑星が地球に影響を及ぼしているなんてすぐには信じられません。でもなぜ地球はこのような姿になったのか。なぜ地球に生命が存在しているのか。その鍵は木星が握っていました。
この時の岩石は小惑星帯からのものでした。小惑星帯は火星と木星の間にあり多くの岩石等でできています。岩石の中には木星の重力の影響を受けて軌道を外れるものがあります。その一つが地球にぶつかり巨大なクレーターを作りました。岩石の軌道を変えてしまうほど木星の重力は強かったのです。
木星は太陽に次ぐ影響力を持っています。このようなクレーターを作るだけではなく他の天体の運命も変えてしまいます。
2:木星の大移動
太陽系が誕生した50億年前、銀河のあちこちで星が死を迎える超新星爆発が起こっていました。星の誕生と死が繰り返される中で少しずつ太陽の材料とるガスや塵が集まっていきました。そして中心部で核融合が起こり太陽が生まれました。そのときすでに最初の惑星「木星」が周囲のガスやチリを取り込み巨大化。こうしてできた木星は太陽系を形作る時に大きな影響を及ぼしていました。それは木星が誕生まもなく太陽系の中心へ移動していたというものでした。
移動した痕跡と考えられているものが現在でも残っています。火星と木星の間にある小惑星帯です。小惑星帯は太陽系が誕生した時にできた岩石が散らばる荒涼とした場所です。 様々なサイズの岩石が漂っています。
その小惑星帯の中に木星の影響を強く受けた天体がありました。小惑星帯最大の天体「ケレス」です。ケレスに氷の層があることは岩石などの小惑星と大きく違う点でした。層は惑星になるための最初のステップです。約45億年前ケレスは惑星に成長する道を歩んでいたのです。ケレスは成長の途中で大きな事件に巻き込まれていました。それが原因で惑星になれなかったのです。
45億年前ケレスを大事件に巻き込んだのは木星でした。木星はガスや塵を払いのけながら太陽の周りを回っていました。しかし軌道が少しずつ太陽の方向へ移動していきます。そして小惑星帯の領域へ。その時木星はケレスが惑星になるためにあった材料を払いのけたのです。小惑星帯が惑星になりそびれた天体の墓場となったのは木星が大移動したからだと考えられるのです。
3:木星のさらなる影響
木星は小惑星帯を通り過ぎ太陽系の中心部へ向かっていました。45億年前今の地球や火星があるあたりはガスや岩石がたくさんありました。そこに強力な重力をもつ木星が入り込んできたことで大混乱が起こりました。
螺旋を描きながら火星の軌道まで接近した木星は太陽系の中心部にあった多くのガスや岩石を払いのけました。惑星の材料を少なくしまったのです。そのため火星は地球や金星の十分の一の質量しかないのです。
木星がさらに内側に移動していたら地球により大きな影響があったと考えられます。我々が住む地球は存在しなかったかもしれません。実は全てを払いのけてしまうように思えた木星の大移動を食い止めたものがありました。それは太陽系にあるもう一つの巨大な第2のガス惑星「土星」でした。
土星は木星と同じように太陽系の内側へと移動していました。二つの巨大惑星が周期的に近づきその重力による相互作用によって二つの惑星は軌道を外側へ向けました。土星が木星の大移動の向きを変えたのです。その結果、中心部には小さな岩石惑星を作れるだけの材料が残りました。水星・金星・火星そして私たちが住む地球。これらは残った材料から作られました。
地球を今の形にしたのはもう一つの木星のいたずらがありました。外側へ向きを変えた木星が地球に置き土産を残していったのです。豊富な水です。
地球は太陽に近いため最初はわずかな水しかありませんでした。その頃木星は太陽系の外側へ向かっていました。そこには氷で覆われた小惑星や彗星がたくさんありました。それらが木星によって太陽系の内側へ飛ばされて地球にたくさんの水が降ったのです。
これは素晴らしい偶然でした。それで地球は今の様な水が豊富な世界になったと考えられるのです。 こうしたストーリーはあくまで仮説ですがよく考えられています。豊富な水を持つ岩石惑星とその外側にガス惑星があるという今の太陽系を作ろうと考えれば説得力がある話です。
4:地球への影響
予期せぬ出来事が起こることがあります。二つの小惑星が衝突したり木星による重力の影響で太陽系の内側に小惑星が飛んでいったりすることです。こうした予期せぬ出来事によって木星は地球などの他の惑星に大きな影響を及ぼすのです。
およそ1億年前直径10 kmの岩石が小惑星帯を飛び出しました。木星の重力によって地球に衝突するコースへ乗ったのです。衝突したときの高熱によって半径1000 km以内は全て死に絶えました。この衝撃によって3000億トンの硫黄などが大気中に放出されました。巻き上げられた灰やちりは空を覆い地表は闇に覆われ気温が大幅に低下しました。生物種の75%が地球から姿を消したと言われます。たった一撃で木星は地球にいた生命の運命を変えてしまったのです。もし木星が小惑星を地球に落としていなかったら恐竜は今も地球にいたかもしれません。このような出来事が起こっていなければ我々は存在していなかったでしょう。
地球には40億年途切れない生命の連鎖がありますが大事件が起こると生命の形は変わっていきます。小惑星が落下して恐竜が一掃されたように。その意味では木星が存在していなければ私たちはここにいなかったと思います。木星のおかげで人類は恐竜から地球を受け継ぐことができたといえるのかもしれません。
5:地球を守る木星
木星が持つもうひとつの側面。それは地球を守ってくれていることです。地球に向かって飛んで来る天体に対して木星は強力な重力で衝突を防いでいます。実際に太陽系の中心に向かって飛んでくる彗星がありました。後に「シューメーカー・レビー第9彗星」と名付けられる岩と氷の塊でできた彗星です。
994年7月「シューメーカー・レビー第9彗星」のかけらは木星の南半球に吸収されたのです。彗星のかけらは6日続けて木星に飲み込まれました。その後直径12000km地球の直径とほぼ同じ巨大な黒い雲ができました。木星は太陽系の中心に向かって来る天体を巨大な重力で捕まえて飲み込んでくれたのです。
6:私たちの運命を握る「木星」
太陽系が生まれた頃木星は大移動し多くの天体に災いをもたらしました。中には惑星へ成長する道を絶たれた天体もありました。その一方で地球などの惑星を現在の形にしたのも木星でした。木星は私たち人類が繁栄できる条件を整えてくれました。しかし恐竜が不幸な運命をたどったように人類も木星から厳しい仕打ちを受ける可能性は残されています。
もしあなたが次に木星を見るときはその存在の大きさに思いを馳せてみてください。時には太陽系の歴史を変える破壊者として。時には地球の生命を守る保護者として。木星は今も私たちの命運を握る存在なのです。